授業方針・テーマ |
中国を取り巻くアイデンティティの政治 |
習得できる知識・能力や授業の 目的・到達目標 |
2025年は中国経済の行き詰まりと米国第一主義的新政権の発足をはじめ、日本を取り巻く国際環境が不透明さを増している。しかも中国という国家・社会のあり方が国際関係に及ぼす影響は、かつてなく増している。日本の将来を考えるときに、中国がその思想的原動力としているナショナリズムの論理と、それゆえに引き起こされる様々な緊張の由来・歴史を知ることは、ますます欠かせなくなっている。そこでこの講義では、中国の国家権力や主流なナショナリズムとの間で摩擦が起きている、新疆ウイグル自治区・チベット・モンゴル・台湾・香港といった地域の問題を、歴史的な視点、国際関係との関連から、総合的に把握できるようにする。
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授業計画・内容 授業方法 |
近年、米国と中国の対立が急速に深まり、中国も米国も自国最優先の姿勢に傾く中、アジア太平洋地域の安全保障環境が変わりつつある。その要因の一つは、新疆ウイグル自治区や香港における人権状況の急激な悪化であり、自由貿易の担い手と自称しながら抑圧的な政治・経済システムによって不当な利益を得ている中国を真っ当な貿易パートナーとすることに対する道徳的な疑問が深まったことによる。 それでは、中国はなぜ、少数民族問題や香港・台湾の問題において(さらには国内におけるガバナンス一般において)、基本的人権を無視し強硬な態度を取るのか。そのことが中国の政治と社会全体にどのような影響を与えているのか。この講義では、前近代(今日の中国の領域を形成した清朝)から今日まで、中国文明と他の文明・宗教文化の間に展開されてきた交流と葛藤の歴史の中に、様々な地域の問題を位置づけて解説することによって、これらは単に「中国の問題の難しさ」「民族問題」「統一か自立か」といった論点だけではない広がりと深みを持った問題であるという理解を促進する。それととともに、現在中国を導く中国共産党の統治手法・イデオロギー・社会との関係についても理解が必須であるため、適宜解説する。そして何よりも、単なる問題・対立だけではない、様々な地域の社会と文化の魅力をも知って頂けるような講義としたい。 講義は以下の通りである。 (予定であり、前後することもありうる。中国関連で突発的な問題が起こった場合その都度解説する) 第1回 中国を取り巻くアイデンティティの政治・総論……2022年11月「白紙運動」の衝撃と景気低迷の時代における「愛国」のゆくえ 第2回 中国文明と「外」「他者」……モデルとしての中華世界論とその限界 第3回 清朝史を読み解く……内陸アジア史の展開が準備した近代中国の領域と、チベット仏教・イスラームも含む多様な秩序イメージの交錯を考える。 第4回 清朝史を読み解く (続) 第5回 近代国際関係の流入に伴う緊張 第6回 政治・社会の近代化「中国人」「中華民族」の創出 第7回 内憂外患と「統一多民族国家」・共産党体制……なぜ連邦制・国家連合は認められないのか 第8回 改革開放と少数民族政策……個別性への配慮から「中華民族共同体意識」への同化へ 第9回 モンゴル近現代史 第10回 チベット近現代史 第11回 新疆・トルコ系ムスリムの近現代史 第12回 中国東北地方・朝鮮族の近現代史 第13回 台湾史の形成と中国ナショナリズムとの緊張 第14回 香港都市文明の形成と「一国二制度」 第15回 成果の確認 |
授業外学習 |
毎回kibaco経由で簡単な確認の小テストを実施し、復習の機会としてもらうとともに出席点とする。 他にも、常日頃から、東アジアとその歴史を取り巻くニュースに注意すると良い。 |
テキスト・参考書等 |
教科書は指定しない。 毎回レジュメ・資料・パワーポイントを配付する。 授業当日午前零時までにkibacoにアップロード→各自ダウンロードして準備されたい。
参考図書は、拙著『大清帝国と中華の混迷』『「反日」中国の文明史』、熊倉潤『新疆ウイグル自治区』、楊海英『墓標なき草原』、中国ムスリム研究会編『中国のムスリムを知る60章』、周婉窈『台湾の歴史』など、折に触れて紹介する。 |
成績評価方法 |
上記kibaco経由の小テストと学期末の試験を総合的に勘案して評価する。
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質問受付方法 (オフィスアワー等) |
非常勤講師のためオフィスアワーは設定できないものの、授業終了後の質問を歓迎する。 (午後別件のため、あまり長い時間は取れない点をお詫びします) また、メール(宛先はYQL07500@nifty.ne.jp)及びkibacoによる質問も歓迎。 興味深い質問であれば次回の授業の冒頭で詳しく解説し、参加者の皆さんと共有することとしたい。
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特記事項 (他の授業科目との関連性) |
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備考 |
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