授業方針・テーマ |
政治権力から自由になることが、自由の基礎、民主主義の基礎となると考える見方が存在します。しかし、歴史的に見ると、現在の議会制民主主義は、王権や中政府の権力が拡充することで初めて成立が可能となりました。もちろん、権力が人々の生活やものの考え方を支配することが抑圧体制につながることもあります。政治権力と人びとの生活の間には、複雑な関係が存在します。この授業では、ヨーロッパにおける議会制と自由主義の歴史的な発展を主たるテーマとし、議会制民主主義がどのように成立したか、を考察します。 なお、高校の世界史においても、同様なテーマが扱われていますが、本授業ではそれとは全く異なる歴史の見方を紹介します。下記に掲げた世界歴史大系を読んでもらうと判りますが、例えば1688年のイギリスの「名誉革命」が実はオランダによるイングランド侵攻と見るべきであるという見解も有力です。1789年のフランス革命を社会経済の側面から「ブルジョア革命」とみなす歴史解釈は現在は少数説に留まっています。無論、歴史には「これが正解」というものはありません。いわゆる「歴史的事実」と信じれていたものや教科書の記述が誤っていたということは、決して珍しいことでありません。もちろん、「新発見」と喧伝されたものが、昔から知られていたものであったり、全くの捏造であることも多くあります。皆さんがこれまでお持ちの常識を問い直すつもりで、多様な歴史解釈について、知的好奇心を持って、批判的に取り組んでください |
習得できる知識・能力や授業の 目的・到達目標 |
古典的自由主義の性格を検討します。イギリス(イングランド)を中心にお話ししますが、オランダや仏独などとの相互連関もお話しします。時間の関係上、イングランド以外の国については、その一端に触れる程度に留まると思われます。それでも比較の観点や相互の影響は無視できません。イギリス(イングランド)を典型例やモデルと扱わず、それぞれの国の独自性に目を向けます。というのも、モデルケースのように取り扱われるイングランドの議会制は、実は19世紀まで強い王権に従属していました。つまり「国王は君臨すれども統治せず」というのは後世に作られた「神話」でした。イングランドの場合、議会は、古くから存在し、現代の目から見ると異質な物の考え方で形成され、展開したもので、過去の遺物としての性質さえあったのです。そういった議会が民主主義の機関としての役割を得るのは、簡単ではありませんでした。また、いわゆる自由主義、リベラルが成立するのは、19世紀初頭の南欧の政治変動の影響を受けてのことでした。「議会制の祖国=イギリス」という通俗的なイメージを克服して、政治発展が直線的に進まないことを理解してもらうのが目標です。 |
授業計画・内容 授業方法 |
第1回 講義の目的と狙い 第2回 近代国家の成立 王権と議会制 第3回 世界システム論とヨーロッパにおける領域国家 第4回 近代国家の成立 軍事革命と財政軍事国家 第5回 17世紀イングランドの内戦と英蘭関係 第6回 イングランドの王権と議会と対外進出 第7回 ホイッグから自由党へ。急進主義とリベラル 第8回 19世紀イギリスの政党政治の成立と宗教、行政革命 第9回 国家的効率大衆社会の発展とイギリス自由主義の隆盛 第10回 フランス革命と議会による独裁 第11回 新しい政治文化の登場。ジャコバンの伝統とボナパルティズム 第12回 第二帝政と新しい政治の仕組み 第13回 フランスの二つのナショナリズムあるいはナショナリズムの再定義 第14回 ドイツのナショナリズムと自由主義 第15回 自由主義・議会制の多様性と比較
ただし、あくまで予定であり、進度に応じて適宜取捨選択を行ないます。 この授業は対面授業です。オンラインでの配信は、リアルタイムでもオンデマンドでも行ないません。資料配付も授業時間の最初に行います。 最初の授業を除き、毎回授業では小テストを行ないます。毎回アンケートも採ります。小テストの答え合わせとアンケートに記された質問に対する回答は授業中に行ないます。もちろん授業時間中の質問も歓迎します。上記の授業計画よりも皆さんの疑問にお答えすることを優先しています。基本的にすべての質問にお答えすることにしていますので、質疑応答が30分近くなることがありますので計画通りに行かなくなると思いますが、回答についても準備しておりますので、その内容も大切な授業と考えて下さい。 恥ずかしがることなく、臆することなく質問して下さい。 成績評価は、毎回の小テストを総合して行ないます。1限ですが必ず授業時間に出席してください。 |
授業外学習 |
参考になる書籍をその都度紹介するので、授業と並行して読んで下さい。授業外の学習時間を合わせた学習が大学生に求められています。 初回の授業で、過去問を使って「教科書的知識」と異なる歴史的視角・政治の分析についてお話をします。参加される方は、是非高校の世界史で学んだことに留まらないで、様々な歴史書に触れ、歴史がいくつもの異なった語られ方をすることを学んで下さい。 |
テキスト・参考書等 |
教科書は特に設けません。毎回授業の冒頭でプリントを配布します。 個別の問題に関するモノグラフは授業中に紹介しますので、できるだけ読んで下さい。 全体にわたる参考書としては次のものがあります。政治史の基本的な考え方について、篠原一『ヨーロッパの政治』(東京大学出版会、1986年)を強く薦めます。また、中山洋平・水島治郎『ヨーロッパ政治史』(放送大学教材、2020年)、平島健司・飯田芳弘『新訂 ヨーロッパ政治史』(放送大学教材、2010年)も非常に有益です。 歴史の事象については、山川出版社世界歴史大系のうち「イギリス史2近世」「イギリス史3近現代史」「フランス史2 16世紀~19世紀なかば」「フランス史3 19世紀なかば~現在」「ドイツ史2 1648~1890年」「ドイツ史3 1890年~現在」がとても有益です。関連する部分だけでも是非読んで下さい。 |
成績評価方法 |
14回の小テストに基づき成績評価をします。そのうち12回の試験は7点満点、2回の試験は8点満点で、採点します。7×12+8×2=100点満点です。それ以外の試験は行ないません。レポート提出などでの救済措置も行ないません。
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質問受付方法 (オフィスアワー等) |
授業時間中にいつでも質問を受けつけます。授業内容にかかわる質問については、その都度授業を中断して、上記の授業計画よりも優先して、説明します。毎回小テストだけでなく、アンケートも行ないます。疑問点があれば、出来るだけ質問して下さい。アンケートに書かれた質問への回答は原則次回授業に行ないます。 これ以外に個別の対応や対面の対応を希望する場合は、必ず予約を取って下さい。形式的に火曜日2限をオフィスアワーとしておきます(法政研究室に待機しております・面談室はその都度確保します)が、それ以外の時間でもなるべく対応しますので、皆さんの都合の良い時間を相談しましょう。ただし、紹介状・推薦状の依頼など、時間のかかるものについては、時間的余裕を持って申請して下さい。 |
特記事項 (他の授業科目との関連性) |
なお、政治史という科目の特性上、戦争、革命、大量虐殺、暗殺等々の残虐な事件、飢餓など陰惨なもの、皆さんが持っているモラルに反する人間の行動についても、話を避けることができません。そういった不快な歴史事象についても可能な限り視覚資料や映像資料を紹介したいので、見たくない方は受講されないことをお薦めします。 |
備考 |
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